休日になるとママチャリを駆って区立図書館めぐりをするのが楽しみになった。くたびれきった自転車だけど、二つの図書館を充分にハシゴできる。あたたかな春風を切ってペダルを漕ぐのも心地よい。
我が街の図書館は2週間で15冊も借りられるのが魅力だが、たまには静かに読書するのも学生時代に戻ったようで新鮮な気分になる。図書館ではミステリーのサワリの部分を読んだり、興味のある新聞記事を読んで引き揚げることにしているが、家での読書とは違って雑音が入らないのが快適なのである。
ところが最近では事情が変わってきた。
図書館は読書する空間と言うよりは、年寄りたちの社交場になってきたようなのだ。
図書館を入ってすぐのところは新聞を読むコーナーになっているが、朝からそこはもう年寄りの花盛り、というか枯れ木も山の賑わいぶりになってきたのである。
図書館といえばシーンと空気が張り詰めているのが通り相場だが、最近では年寄りの世間話が行き交うようになった。耳が遠いせいか、声の大きさと私語のパワー全開には思わず引いてしまうほどである。
「あれっ!あんた入院してたんじゃないの?」
「入院したのはアタシじゃなくて○○さんだよ。アタシが入院したのは3年前だよ」
に始まり、
「アタシだってオコメは研げるし、味噌汁くらいは作れるのよ。それをさせないんだから、まったく何を考えてんだか」
「ここんとこ冷えると腰にビリビリきて痛いの何のって」
と嫁への陰口や愚痴話が続くのである。
これが元気なおじいちゃんでは、
「連複にすれば間違いないんだからさぁ〜」
「それじゃぁ、そうすっかなぁ〜」
と競馬の予想から、
「小沢にも一度は総理をやらせりゃいいのよ。そうすりゃ〜実力が分かるんだからサ」
と政治談議までが繰り広げられる。
そんな年寄りたちを見ていると、とても心静かに読書に…とは思えないのだが、図書館の係りの人は大目に見てか注意しない。周囲の人も聞こえないフリをしているのか文句をつける気配すらみせない。
静かに読書したけりゃ閲覧室に行けばいいのだから、年寄りの世間話にメクジラ立てることはないとは思う。
しかし、である。図書館前のベンチで一服していた年寄りたちの話にはノケぞってしまった。
「アタシらの税金でやってる図書館だろ?煙草くらい部屋ン中で吸わせてくれたっていいじゃないか」
「煙草もそうだけどさぁ、中じゃ飯も食ねぇだろ。食わせてくれりゃいいのに。そしたら弁当持って来るのによぉ〜。ハハハ」
(あのねぇ、いかに何でも言い過ぎじゃぁ)と思ったが、言いたい放題の冗談を言わせるのも、わが街の図書館がそれだけ年寄りを大事にしているからこそなのだと、思い直したのだった。
コラムに関するご意見・ご感想はこちらへ:info@e-koe.net |