犬の散歩を日課にしていると、同じように犬を連れている人と会うことが多い。度重なると親しげに言葉を交わすようにもなる。
だが、「お名前は?」「おいくつ?」と犬のことは訊いても、飼い主のことは、まずは訊かない。
それはそうだろう。いきなり「あんたのお名前は?」「おトシは?」と訊くのはいかにも不躾というか、違和感があるというか……。
だから、いつまで経っても犬の名前は知っていても飼い主の名前は知らないまま、「きょうはいい服を着せてもらっているねえ」とか、「トリミングしてサッパリしたなあ」と、もっぱら犬に向かって社交辞令を言うことになる。
まあ、それはそれで飼い主と間接話法の会話をしているのである。問題はそれを逆手にとってメチャクチャに人の心を傷つける人がいることだ。
街中を抜けてM公園に行く途中、ちょっとした広場のベンチで一服しているときだった。
小型犬2匹を連れたハデハデの出で立ちにサンダル履きの中年女性が近寄ってきた。
(こりゃマズイな)
ワルイ予感がした。このテの雰囲気の女性は経験上、自己中のオシャベリが多くて苦手というか、敬遠したいというか…。案の定、的中した。隣に座ったオバサンは小型犬を抱きかかえ頬擦りするや、開口一番、
「○○チャン、ホラ見てごらん、このワンちゃん、面白い顔してるねえ」
と、いかにもおかしそうに我が愛犬のご面相を評したのである。
たしかにオバサンが連れていた2匹はテレビCMで大ブレークした小型犬種で、ウルウルした目が愛くるしいと言う人が多い。それに引きかえ黒のパグ犬の我が愛犬は、ドテッと肥満気味のうえに鼻が顔にメリ込んでいて見方によっては「面白い顔」をしているかもしれない。
しか〜し、飼い主が「面白い顔してるでしょ?」と謙遜して言うならともかく、初対面の見ず知らずのオバサンに言われる筋合いは毛ほどもないではないか。
それに、街中を連れて歩いていると自転車で擦れ違う人は、「面白い顔」というよりは「おお!このワンコ、愛嬌がある顔してるじゃないか!」と言う表情で目を細めるし、女高生などは「カッワユ〜イ」と頭を撫でに駆け寄るのだ。
それを自分の愛犬をさも可愛げに抱きしめながら「ホラ見てごらん」と珍獣扱いするとは失礼にも程がある。まぁ、どっちもどっち。こういうのを親バカならぬ「犬バカ」と言うのかもしれないが、実に不愉快になった。(角が立つのもなんだし)と黙って愛犬とともに、その場を去った。
だが、人間、会いたくないと思っている人には会ってしまうものであるらしい。こんどはM公園で愛犬2匹を引き連れたオバサンにパッタリと出くわした。(ヤバッ!)と思った瞬間、駆け寄ってきて、まくし立てた。
「アラッ、この前のワンちゃんじゃないの。アンタいいところで会ったわよ。これからお友達みんながアソコのお山で集まるの。アンタもいらっしゃい。アンタ初めてだから、いっぱいお友達を紹介してあげるからね」
急ぐからと、その場を去りながら思った。
ワンコにも公園デビューあり!かよ?
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