運動が苦手な子どもはいつの時代でもいるものです。彼らにとって、体育の授業はほんとうにつらいものです。なにをかくそう、私もその典型的な例でした。
幼児期から小学校低学年でできているはずのものが、ぜんぜんできないまま学校生活を終わってしまったのです。私ができなかった理由、それは「怖いから」です。
鉄棒の「逆上がり」ができない子どもはときどきいます。でも、私は「前まわり」すらしたことがないのです。鉄棒に飛び付くことだけはかろうじてできます。でも、それ以上のことをするのが怖かったのです。
マット運動も、跳び箱も、とにかく怖くてできません。マットでまっすぐに回ろうとすると、左前に傾いてしまうのです。跳び箱も、高校1年のバレーボール部で馬跳びができるようになるまで、自力ではしたことがありません。とにかく、新しいことにチャレンジするのが怖いのです。
そんな私ですが、中学から高校にかけてしていたバレーボールの回転レシーブだけはできていたのです。あれは、まっすぐでなく斜め後に回るのですから……。
さて、すべてがそんな調子ですから、夏になると必ず行われていた水泳は、たまらなく嫌でした。小学校低学年のころは、学校にプールがなく、近くの川へ泳ぎに行っていました。夏休みも引率の大人に連れられて、あちこちの川へ行ったものです。しかし、私は水に顔をつけることすらできません。水が怖かったからです。
子どものころは、まだ家庭にシャワーがなく、頭を洗うときは洗面器に頭を入れて洗っていました。ですから、頭上から水が降ってくるという感覚がわからず、後にプールができてからも、それが怖かったのです。
そんな私でしたが、中学3年の夏、どうしても泳がなければならなくなり、なんとたった「ひと夏」での特訓を決心したのです。それは、泳げなければ高校進学の成績に差し支えるという、あとには引けない事情ができたからです。
ここで、私が中学3年のときに経験したことをまとめてみます。
<ひと夏で泳げる方法> |
(プールの水に顔をつける)
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・顔をつけることは、洗顔の延長 |
・顔がつけられるようになると、頭全体をつける(水の中にもぐる)
最初は、すごい水圧を感じるが、なれるとだいじょうぶ |
・水の中で、目を開ける練習 |
(泳ぐ練習) |
・浮き板につかまって進む練習(小さい子どもは浮き輪)
体の力を抜くことが大切
最初は、板にしがみついて進み、だんだん体から離していく |
・同時に、水にもぐる練習もする
なれてくると、体の力を抜くと自然に浮くことがわかってくる |
(自力で泳ぐ練習)
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・浮き板や、友人に手を引いてもらって練習しながら、だんだん自力で泳ぐタイミングをつかむようにする |
(息継ぎの練習) |
・距離を泳ぐためには、息継ぎが必要
水面から頭を出すタイミングが大切 |
私は夏休みといっても、合計10数回しかプールに行っていませんが、なんと!
その短期間で泳げるようになったのです。ただ、残り日数の関係もあり、息継ぎだけはできませんでした。ですから、泳げる距離は息が続く距離、つまり10数メートルです。
しかし、水に顔すらつけられなかったことを思うと、その努力の成果は十分あります。私が修得した泳法は、「クロール」と「背泳」でした。背泳は、もちろん息継ぎの必要なありません。「平泳ぎ」も試みましたが、余分な力が入り、進むにつれてだんだん沈んでしまい、結局できませんでした。
でも、水泳は平泳ぎからというのは過去の話で、自分の好きな泳法から入ればいいと、高校2年の夏休み、保育実習先の保育園で聞きました。
中学3年の2学期が始まってすぐ、100メートルのタイム測定が行われました。25メートルのプールを2往復です。その間、立ち止まった回数をカウントしなければなりませんでしたが、なんとかクロールで泳ぎきることができました。
そうそう、飛び込みの練習もしました。まず、足から入る練習をしましたが、最初はすごい水圧を受けます。最終的には飛び込めるようになったのですが、失敗すると、胸やおなかに「バッシャ〜ン」と痛みを感じました。
そんなこんなで、泳げないと思っていた私でしたが、息継ぎはともかく自力で泳げることができたのです。それも、中学3年の夏休み。しかも、プールに通いづめではなく、ほんの10数回の練習で。
みなさんの子どもさんにも、水が苦手な子もいるかもしれません。でも、だいじょうぶです。きっと泳げるようになると、私の経験から書かせていただきました。
余談になりますが、オリンピックに3回連続出場した平泳ぎの田中雅美選手のご両親は、ともに体育会系ですが、お父さんは泳げないとか……。もちろん、泳げないの意味はさまざまです。まったく泳げないという意味なのか、体育専門レベルにしては泳げないということなのか、そこまではわかりません。
また、私の高校時代の体育教師(女性)は、大学で単位を取るために、初めて泳ぐ練習をしたというエピソードがあります。それまでは、水が怖くて泳げなかったというのです。
体育の専門家でも、こういう経験をしているのですから、極一般の私たちが泳げなくても恥ずかしいことではないと思います。大切なことは、「怖い」というハードルを乗り越えることです。
この夏、みなさんのご検討をお祈りしています。 |