当日は、目が覚めたのが4:40。病院についたのが6:30。陣痛室に入ったの
は7:00。
もう子宮口は8センチ。
やっとここまで、漕ぎつけた。
妊娠が発覚してからというもの、加速度つけて焦がれて焦がれて、待って
待って待ち続けて、トツキトウカ。
やっともうすぐ、赤ちゃんに会える。
長かった。臨月に入ってからは特に、今日か今日かと気が気でなかっ
た。
はじめての妊娠。次第に膨れ上がるお腹に不安を覚えながら、この日を夢
見てきた。
苦しい食事制限・腹痛・足のむくれに苛まれながらも、長い日々を必死で
乗り越えてきた。
そして今日、待ちに待った陣痛がやってきた。
不安と焦燥感に駆り立てられるように病院にたどり着いて、もうずいぶん
時間が経過している。
それまでは、大声を出さずに陣痛に耐えて頑張っていた私も、
ここからはもう耐え切れず、獣のような、自分でも聞いたことがない音を
出し、叫びだした。
そして、やっと子宮口全開で1:00に分娩室へ。
いきみのがしのツラサから、獣のように叫んでいた私も、この時からは叫
び禁止令を出される。
(もう、いきんでいいんだ!!)
赤ちゃんの出口めがけて踏張った。
踏ん張って踏ん張って・・・。
何度踏張っただろう。全然出て来ない。
どうなってるんだろう・・・。不安がよぎる。
「まだ呼吸法しなきゃダメだよ。大きく吸って、半分吐いて、ぐっといき
んで!」
先生は注文が多すぎる。でもとにかくやってみる。
そうこうしているうちに、陣通用の椅子が分娩椅子にシフトチェンジにな
った。
立ち会い希望じゃなかったので、母と旦那様は退室。
私はその間ずっと、中途半端ないきみで頑張る。
酸素マスクをつけらた。やっと、いきみ全開の許可がおりた。
必死でいきむ。今まで出したことのない力を出し、全身全霊をかけていき
む。
「赤ちゃんの頭が引っ込みましたよー。もっと力んで」
(えっ?! 頭が引っ込んじゃった?! ど、ど、どうして?!)
心で赤ちゃんの名前を呼びながら、踏張る。
(お願い、出てきて! お願い! お願い! お願い! お願
い!!!!)
「頭でてきましたよ!」
(や、やった・・・)
ハッハッハッの短息呼吸にかえる。
そしてその瞬間、どこからともなく大きな泣き声が!
それに「おめでとうございます」という声も聞こえる。
やっと終わった…。
もう二度とゴメンだ…。
感動より何より、やっとラクになれたという安堵感でいっぱいになった。
生まれた時間は、16:15だった。
「へその緒切りますね」
そう言われてすぐに、赤ちゃんは私の胸の上に。
なんて、なんて小さくて弱弱しくて、頼りない存在だろう・・・。
今、お腹から出てきたばっかりなのに、二重で大きな真っ黒の目に、
涙をめいっぱいためて、眉間にしわを寄せている。
なんて綺麗な顔!!!
赤黒くて皺皺なのに、本当に綺麗に思えた。
これが世に言う親馬鹿?
感動する母と裏腹に、赤ちゃんはこの世に生まれ出てきてから、ずっと泣
きじゃくってる。
外の世界は不愉快そうだ。
「痛かったねー。眠いねー。寝ていいからね」
赤ちゃんに声をかけてる自分に気付く。
とっても優しい声。自分にこんな一面があったなんて。
妊娠が発覚したときは、子供を愛せるのか不安だった。
赤ちゃんってどんなものなんだろう?すこし警戒もしていた。
でも今、目の前にいる生き物は、そんな不安も消え去るほど、はかなく、
そして愛しい。
私は大丈夫かもしれない。
これから先、どうやって子育てしていっていいのかもわからない。
きっと戸惑うことだらけだろう。
それでも私は、大丈夫だと思う。
この繊細な暖かさに、胸を締め付けられそうな、切ない愛しさを噛締め
ながら、私は、はじめて小さな自信を感じていた。
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