わたしの出身は小さな地方都市です。
よく新聞でありますよね。どこの地方もドーナツ化減少が進み郊外に大型のスーパーができ、商店街がさびれてあるのはチェーンのお店ばかり。
同じような光景がわたしの地元にもあります。ぽつぽつと個人商店はあっても勢いは感じられなくて。駅前の商店街なんてシャッターが下りているところが多くて、やっているところがあっても細々とです。
あんまりチェーンは好きではありません。どこ行っても同じ味だなんて、面白くないじゃないですか。味はそれなりですが。
それ以上でもないでしょ?でも、行くところっていったら、それしかない。つまんない
けれどそれしか選択はないわけです。
それが当たり前だと思っていたのですが、東京に出てきてびっくりしたのが、ちゃんと商店街があること。
何回か住まいを変えてもちゃんと商店街があり、そこで商品を買えるのです。私鉄沿線でもです。
まあ、スーパーもありますので、活気の差はありますけれど。前わたしが住んでいたのは今の最寄の駅の二つ先でした。
当時勤めていた会社が、今の駅と当時住んでいた駅の間にあったので、自転車で通っていたのですが、そこの間の商店街で豆腐屋さんを見つけました。
個人商店でこじんまりしていて、店は少し古ぼけていて、○○豆腐店の看板の文字もかすれ気味。
それでも個人のお豆腐はどんなんだろうと思い、声を掛けてみました。
出てきたのは齢70は過ぎていそうなおじいちゃん。腰も曲がっていて動くのもゆっくりでした。
お豆腐と油揚げを買って家に帰り、夕食にだしました。
何の料理を作ったのは覚えていませんが、豆腐は普通だったのですが、油揚げの香ばしさに驚かされました。少し厚く、食べ応えがあって。
これと比べるとスーパーで売っている油揚げはおとなしくまるで個性がない。差は歴然としていました。
それからわたしは油揚げはそこの豆腐屋さんと決めて通いつめました。そもそも油揚げなんて、脇役ですよね。お味噌汁にいれるとか。
肉の代わりに使うとか。
でも、そこのは、立派な脇役、時には主役をはれるくらいの油揚げ。
料理にないと物足りないのです。
冷凍だと味が落ちるので、一日おきに通いつめるくらいのリピート率。まさしくわたしの油揚げの観念を変えたといっても過言ではありません。
通いつめるうちに、奥さんのおばあちゃんとも買いもの以外に話すようになりました。おばあちゃんも膝が悪く、びっこをひいていて。
おじいちゃんも心臓にバイパスを通して働いているそう。一度はやめようと思ったのだけれど、長年続けてきていたのでもうひとふん張りと、頑張っているそう。
わたしは他の商店街のお店も通っているのですが、豚肉屋さん、鶏肉屋さんも八百屋さんもお年寄りの方ばかり。
ちらほらと若い方も頑張っていますが、大抵は後継者がいず、また激務だしこの景気でもうからないので子供に勧めることもできないそうです。
お豆腐やさんも長く続いて欲しい。でも・・。
通い始めて5年は過ぎました。その間に結婚をして、子供もでき、引越しも2回しました。
だんなも油揚げの大ファンだったので、子供にも食べさせたいねといっていました。子供がまだ油揚げを噛み切れず、味も多分わかっていないこの春。
お豆腐やさんのシャッターがおりていました。
断り書きが書いてあって、しばらく休みますのこと。でもそれきり開くことはなく、ある日通りかかったら中の設備を取り壊していました。
もうその店に行くための道を選ぶこともなくなりました。あれ以上の油揚げは他のお店に行っても会えず、時々思い出します。
幻となってしまったけれど、本当に満足できる味だったなあと。挨拶は出来なかったけれど、伝えたかったです。
大げさなようだけれど、一人の人生を変えたくらいの影響力がこの油揚げにはあったということ。今までありがとうございましたと。
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